鑑定会スケッチ

9月11日協会本部鑑賞会紀行スケッチ


 今年の暑さは格別、9月になれば少しは涼しくなると期待していたにも拘わらず、当日になっても一向に変わらず、案の定、家では中止すべきと口煩かったが、好きには勝てず村松さん・中村さんのお世話になりながら、静岡発9時19分の「こだま」に乗り込む。車中お二人から、いろいろのお話を伺いながら、やがて東京人となる。新宿から代々木へのペーブメントの照り返しは厳しい。

 途中、何時ものようにウドンで早昼食を取る。本部へ着くと滝の様な汗、汗、汗。汗を拭う時も惜しみ「古刀新刀名作展」会場へ急ぐ。重文は兼永・信房作(古備前)・清綱(短刀)の3振り。続いて重美3振り・特重6振り・重要他15振り。鍔・刀装具は「金家」の重美を始め鉄鍔集で特重・重要刀装42点、刀装2点。加えて現代刀工・作家の刀・鍔など数点と非常に豪華な展示会。以上を一時間位で鑑賞するのは至難の業、時間の許す限りお互いガラスに顔をブッツケながら喰い入る様な目つきで眺める。今まで何回も見たことのある刀も忘れている。矢張りガラス越しの鑑賞では仕方がないのかと思いながら、自分の超高齢健忘症には気が付かない有様。鑑定会の時間が迫り慌てて会場へ急ぐ。受付の手続きを済ませ会場へ入ると、もう大勢の方々が鑑定刀と取り組んでいた。当日の参加者は炎暑にも拘わらず50名を越していた。この日の参考鑑賞刀は「越前守助広」で重美の助広を始め実刀4振り、実物大押し型1枚だった。全く個人的なことで恐縮だが、小生の悪い癖の一つをご披露して置く。「鑑刀心静」薫山と書かれた額が机上にあり、何時も眺めているのだが、鑑定会になるとドコエヤラ忘れてしまい、自作自演が始まり特に参考刀が出るとハマッテしまう。何か参考刀との関連がありはしないか。これでは鑑定にならない。当日もこれで大きな失敗をしでかした。

 さあ鑑定だ!1号は満員なので2号へ連なる。後ろから眺めていると新刀脇差と見えた。手に取ると寛文新刀の姿、短い直ぐ焼き出し、匂口深く比較的大きな互の目がつらなる。ここで最初の参考刀の出番、参考刀は「助広」だ砂流が気になるが助直で行こう。こんな単純な鑑定?で助直へ。
 次は3号刀、長寸の錆びた刀で反り浅く手持ちの感じからも新らしい。刃紋は間遠に互の目丁子が見え、帽子は三品風、地鉄はよく見えないがこの形態刃紋・帽子より出羽大掾国路が浮かぶ。もう一度姿を見ると消去法で慶長新刀に近い。国路へ。ここで1号へ廻る。手持ちの良い重ねの薄いすすどしい姿の打ち刀で反りは深め。刃紋は大互目がのたれる中に小丁子が顔を出す、アッ!支部で見た刀だ。村正に違いない。ここに見知り刀が出現しようとは驚き。
 続いて4号刀後ろで決めてしまったのだ。例の参考刀のなせる業。直刃の場合切っ先へ行くに従い、焼幅が広くなるのが助広の手癖、全く他を考えるでもなく決めてしまい、重ねったっぷり身幅広い中細直刃の脇差だったが、帽子・地鉄もよく見ないでの入札だった。冷静に見れば誰が見ても肥前帽子で他に行きようの無い脇差しだったのに。後で何回も何回も眺め廻すことになった。
 次の5号刀は見知りだった。ごく最近の支部鑑定会でも5号刀だった。最初から大磨り上げと但し書きがあった。綺麗な地鉄に特長的な食い違い刃が見られ、すぐ気が付いた。2振りも見知りがあったことは驚きである。同行の両氏を探すとお二人共涼しげな笑顔をしていたので満点かなと想像した。こんな状況でお粗末極まりない小生の鑑定がおわる。この間約一時間、50余名ともなると1分づつでも一通り見るのにかなりの時間がかかる。
 正解は1号村正(刀)2号助広(脇差)3号国路(刀)4号近江大掾忠広(脇差)5号行光(刀)。ここで一寸会場風景をご紹介して置く。参加者女性1名を含む50余名、ご担当は石井講師。大勢の方々が手に手に分厚いノートや参考書を抱え、真剣に取り組んでおられる。その雰囲気から社会的地位の高い方々も相当おられる事と思われるが、刀の前には皆さま全て平等で楽しく鑑定に励んでおられる姿は快哉を叫びたくなる気持ちになる。小生の前で沈思黙考の老紳士がおられ、かなりの年配の方と思われたので声を掛けて見た。
   「ご熱心ですね。どちらから?」
   「市川です」
   「失礼ですが何年のお生まれですか?」
   「大正13年で86才です」
   
「はあ!」驚いた。
 
自分が最高齢と思っていたのに、さらなる大先輩がカクシャクとしてご参加されていたとは大きな驚きで畏敬の念を深くした。近くの方々と会話が弾み、隣の方は奈良市の方で毎月ご参加の由。昨晩、7時頃高速バスで奈良をたち、今朝7時過ぎ新宿着とのこと。理由をお聞きすると奈良の社寺にも名刀は多数あるが、おいそれと簡単に拝見する訳には行かない。協会本部が一番ですと笑って話してくれた。上には上があるものだと驚いたり納得したり。確かに30~40振りの一級の名刀を一堂に集め、或いは手に取って拝見出来るのはここしか無いのだ。時間と多少の費用は止むを得ないが、他の刀剣愛好家の方々もぜひご参加頂きたいと念願する次第。

 ご希望の方々ぜひご同行を!・・・以上会場風景スケッチまで・・・3時に鑑定締め切り、講師より懇切丁寧な解説と質疑応答があり、当日の参考刀の見所と銘の説明の解説を最後に4時頃閉会。新宿南口までゆっくり歩き、東京発17時6分の「ひかり」に乗る。車中、当日の刀を振り返りながら語り合い、何時しかまた静岡人になっていた。車窓から見た西の空はもうすっかり秋空で、美しい雲に彩られていた。

 以上、全くお粗末な本部鑑定紀行の一幕でした。
 ご質問なり、お話などございましたらメール頂きたいと思います。

以上文責 小野田 彰 sa.onoda@nifty.com メールお待ちします。