草薙刀剣会と不思議な刀

 静岡市  井上福二

 私が始めて刀に接したのは小学校五年生位の頃と思います。
私の父は無類の刀好きで当時は日刀保静岡東部支部の理事を務めていた事も有り
あの有名な佐藤寒山氏、本間薫山氏ともよく行き来して居た様です。

 私自身も寒山氏には直接のご指導を頂き、今は良き思い出となって居ります。家には常に十数振りの刀が有り、毎日の様に父親が刀に接している姿を見ていたせいか、小さい頃から刀と言う物にそれほど違和感を感じた事はありませんでした。むしろ魅力を感じていたのかも知れません。
 ある時、父親を訪ねて来た客人の刀を傍らで見ていた私が「これは肥前の忠吉です。」といってその客人を大層ビックリさせたそうです。
これも小学校五、六年生の事だったようです。

 その後、居を熱海からここ清水に移しました。当地では父親の縁で水野さんとのお付き合いが始まりました。
お互い刀剣談義が進むうち、自然と仲間も集まりだし勉強会へと発展して行きました。清水から鍔作りでは数多くの入選を果たし、研ぎ、はばき作り、 白鞘作りと無類の器用人の川島君、浜松から技工士の渥美君、焼津の片山さん、市内の山崎さん、趣味人の村田さん、女性では洞工さんも参加され、花を添えてくれました。

 毎月一回の楽しい勉強会が十年の長きに亘って続いて居りました。名前も水野刀剣教室から草薙刀剣会へと代りました。間もなく歴史好きの海野くんが入会してきましたが、入れ替わるように平成五年の暮れ水野さんが他界され、会にとっては大きな損失でした。
その後私が判者を務める様になりましたが、この間、記念すべき百五十回の会を迎える事も出来大変嬉しく思っております。

 やがて第二の鍔師栗下君,茶道家の望月君、土佐の岡田以蔵をこよなく愛す青木君、和服の似合う花井君、名刀持ちの服部さん、屋根裏の刀探しの名人鈴木さん等々の熱心な刀友が集まり、最近では二十歳の若い双子の川島兄弟の入会も有り活動も益々盛んとなって居ります。
 処で刀好きの父親が晩年もっとも気にいって居た刀は地元の名士の持ち物であった「住人忠吉」でした。渋い拵えが添えられて居ましたが、こういう刀が本当の名刀だと常々話しておりました。
 父親も今は古人となりましたが、これも御縁とでも言うのでしょうか昨年の秋、偶然にもこの「住人忠吉」が息子である私の手に入ったのです。
今では父親の思い出と共に日々楽しんで居ります。私も今まで千振りを越す刀を見て居るでしょうが、印象の一振りを挙げろと云われれば,何といっても「古備前の吉包」が一番でしょう。
 典型的な平安時代の姿に、働きという働きが総て網羅され、刀身全体に入る縦の地斑映りの中、これに交差する様に段映りと言うか七条に近い映りが僅か五分も満たない地一杯に働き、透かして見ると二寸位に広がって見えるのが不思議です。しかも刃縁は赤く輝きこれぞ名刀と常に心から離れない物で有り、改めて歴史の古さを感じます。又見るたび見るたび新しい発見が有り、我々仲間内でこれを化け物と言って居ります。

 さすが大名刀「吉川家伝来」と言われるだけの事は有ります。この好きな二振りがこの度の東海四県大会・静岡大会に出品される事になり、これも又無上の喜びであります。

 最後に「古備前吉包」の押型を紹介してこの稿を閉じたいと思います。

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